半年くらい前に帯につられて買ってずっとそのままだったんですが、この間ふと思い出して読んだら大変面白かったので記録に残しておこうと思います。

命売ります (ちくま文庫)
三島 由紀夫
筑摩書房
1998-02

 

■最近よく書店でみる


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 そもそもこれを買うきっかけになったのは、上野にある往来堂書店というちょっぴり有名な書店があって、そこを訪ねた際に売上1位になっているのを見たことです。店のランキングコーナーに面&平積みでどかっとおいてあって、そしてこんなPOPみたいな帯までついてるし、そこまで推すのならよし買ってやろうじゃないかということで買ってみました。

■あらすじ ※超ネタバレです


 箇条書きにするとこんなかんじの話でした。

・主人公は、とくに理由もなく試みた 自殺に失敗した男。「一度失いかけた命だから」と、主人公は新聞に「命売ります」 との広告を出す。
・この広告を見て、様々な怪しげな客たちが主人公の命を買いに彼のもとを訪ねる。 彼はそのたびに自分の命を売る(=死ぬ)気でその仕事を受けるが、そのたびにその依頼をうまくこなし、命をつないでしまう。
・ 命を売ることにも疲れてしまった主人公は、休暇として、とある行きずりの女のもとに転がり込むことに。しかし女は狂人で、主人公道連れの自殺未遂を繰り返す。
・主人公は「そんな不本意な死に方で死ぬのは嫌だ」「そもそも女が死にたがっている理由が不条理である」という2点からその自殺を拒否し続ける。 が、同時にかつて死にたがっていた自分の思いとの矛盾に悩む。
・主人公は女のもとから脱走する。が、今度はかつて命を売っていたころに目をつけられていた闇の組織に追い立てられ、やはり主人公はその組織に自分が殺されることに恐怖を感じ、逃げ続ける。
 
・必死の逃走もむなしく、主人公はついに捕まってしまうが、 またも機転を利かし、敵のアジトから逃げ出す。彼はその足で警察に飛び込み、それまでの事情を説明するが、警察はそれにまともに取り合わず、彼は署からつまみ出されてしまう。彼は署の前の階段を下りる気力もなくなりその場にしゃがみ込む。泣き出しそうな気持ちになりながら、彼はポケットの煙草に火をつける。


このざっくりしたあらすじを読んだだけでも、どうでしょう、かなり面白いと感じるんじゃないでしょうか。

そもそものテーマである「命を売る」という行為がまず斬新で、前半のこれに対する客の依頼と、その顛末も相当読ませる内容なんですが、そこから逆説的に命を失うことに対する恐怖を抱いてしまう主人公の心情の変化につなげるところがやはりすごい。なるほどそうきたか、となります。

主人公が命を売る稼業を休むきっかけとなる、女吸血鬼のエピソードがあるんですが、それもまた良い。僕、恥ずかしながら「金閣寺」なんかの三島由紀夫の代表作を1冊も読んだことないんですが、ことこの作品に関していうと、三島は美しい女性を描くのが大変うまい、と感じました。この女吸血鬼に関するエピソードはそれが大変に良い効果を発揮して、グッとくる話に仕上がっておりました。



■感想


上の写真に書いてある「イメージを裏切る読みやすさ」は本当にその通りでした。僕は年間2~3冊は古典の現代小説(という言い方をしていいのか)を読むようにしているのでまだ半世紀前の小説だといわれても抵抗なく読み始められるのですが、ライトな読者はなかなかそうはいかないでしょう。そういう方にこの小説は大変おすすめできます。

ストーリーはわかりやすいし、言い回しもなんだかんだ現代風、それでいて古典特有のクセのあるメッセージ性なんかも備わっていて、古典現代小説の入門として大変良い1冊ではないかと感じました。

ただ一方で、上の写真の帯に書いてある「ラスト10頁の衝撃的どんでん返しまで一気読み」というフレーズ。これは(大変個人的な意見ですが)あんまり好きになれないです。これ、要はあらすじの最後の項、警察でつまみ出されるところを指してるんだと思うんですが、このフリが頭の中にある状態で読むとどうしても構えてしまうというか…なんも知らずにここに行けたらどんだけびっくりできたか、と思ってしまいました。

でもああいう目立つ帯を巻いていたからこそたぶん往来堂書店で1位になれて、だから僕がこの本を買うことにもなったわけで、あんまりこういうこと言うのはよくないですよね。こういう古典を今一度掘り返して売っていこう、っていうのは大変いいことだと思いますし。

■まとめ

という宣伝のしかたに対する不満はあるにはありましたが、純粋に1つの小説として大変楽しめる1冊でありました。三島由紀夫はちょっと本読んでる人はたいがいすすめてくる古典作家ですし、そこを押さえておくという意味でもこの作品はおすすめでした。

命売ります (ちくま文庫)
三島 由紀夫
筑摩書房
1998-02